君と逢える約束の場所 1万年前にやってきたたける

澄んだ空から、ひとひらの光が落ちてきた…。
そこには美しき大地が広がり、
その素晴らしさを、生命たちが見守っていた…。
1万年をさかのぼった たける…。

その地へとやってきた…。
僕は、今、空から落ちている…
沢山の悲しみと、沢山の期待をもって旅立った…
素晴らしい世界を生みたいと、人生で初めて思った…。
そしてここへ来た。

不思議だ。僕はゆっくり、空から落ちてゆくが、
今まで感じたことがないような充実感、
いや、はかりしれぬ安心感、嬉しさの中にいた…。

すべてが愛しんでくれていることがわかるこの感覚は、
一体なんなのだろう…
僕は、光の玉の中にいた…。

それからしばらく空中を浮いていた僕は、
ふかふかのコケのような美しき森の中の大地へと静かに降り立った…。
すべてが至福だ…。輝いて見える…。

森たちが嬉しそうに僕に興味を持って、
うわさしているのが手をとるようにわかり、
その言葉までがわかるように感じる…。

不思議な、不思議な世界…。
しばらくそこで瞑想的状態でいたのだろう。
すべてが体験したことのない至福のやすらぎの中だった…。

たける:「誰かがつつく気がした…。だれ?誰なの…?」

ぼんやりしていた意識がめざめはじめてきた…
白昼夢、昼寝の終わりのようだ…。
すると、目の前に美しい動物たちがいて、
みなが周りにいてくれていた…。
やさしい感じ…少しも怖くない…不思議だ…。

たける(ひとりごと):「これ、見たことある。あ、そうだ、ブッダの話の周りに集まる動物たち…マンガで見たぞ…」
そんなことを想った…。
まだまだ人間…。

白いオオカミ君のような、美しい彼が話してくるのをなぜか感じる…。
オオカミ君「ティナが待っている。一緒に…ゆこう…。」
彼らは空中に少し浮かぶように歩く。
僕も同じように、ふわふわとついてゆく…。
多分、重力の強さが僕らの世界と違うのだと思った。

いや、人間的思考…
僕の心は変わっていなかった…
ざ ん ね ん…

遠くから誰かの声が心の中で深く聞こえてくる。
遠くなのにそのあたりが光っているようにも感じる。
不思議な光景だ…。

ティナ:「たける 待っていたわ。ずっと…」
そう感じた…いや、聞こえた…。
間違いなく、でも心の中というのか…
人が立っている。きれいな子。
少女のよう………

たける:「君は誰?なぜ僕を知っているの…この動物たちは…」

ティナ:「どうぶつってなに?」

たける:「この可愛いこの子たち…」

ティナ:「ゴンたちのことね…彼らはどうぶつと呼ぶの…1万年後の人たちは…」

たける:「ハイ…」

ティナ:「そうなんだ…」

ティナ:「動く植物さんたちを、「植」を取ったということかナ…」

たける:「どういうことでしょう…」

ティナ:「丁寧な言葉…まじめ君…?」

たける:「いえ、そうでも…」

ティナ:「すべての生命は、大地、土を尊び、それと共に生きてる。
あなたの言うどうぶつ?と植物さんとは、同じものよ…。
土を作り、持って歩くのが、私たち歩く植物。だから、あなたたちのどうぶつ。
すべてが一体の世界の中、今いる…。
きっとあなたもこれから感じる…。」

たけるのつぶやき:「早速、もう難しくなってきた…」

ティナ:「なに?なにか言った?」

たける:「いいえ、なにも…」

ティナ:「だから私たちが腸と呼ぶ器官は、大地を、土を創ってそこからエネルギーを取り込んでいるの…そこに住む細菌さんたちが素粒子変換して、その細菌さんたちのおかげで、このひとつなる世界はいつも美しく輝いている…。
必要なエネルギーを供給している… 私たちは、だから動けるし、空も飛べる…」

たける:「エッ…空を飛べるんですか…?」

ティナ:「当然…飛んでみる?一緒に…。」

たける:「ハイ…」

ティナ:「やっぱりまじめ…」

ティナ:「この美しい世界を見せてあげる…
すべてが一体なる世界…行くわよ!」

たける:「ハイ…やっぱり僕は、マジメかも…」

ものすごく強い反重力を感じた瞬間、僕は空中へふわっと浮き上がっていた。
何か突き上げるような感覚だ…。
ティナと手をとると、不思議に空を飛べた。
そこには美しき世界が広がっていた…。
すべてのものがひとつだと感じるあたたかなハートがある。

それは人や動物たちだけでなく、木々や水たち、空気や山々すべてが、
分離した、自己拡大のない、自我の野心のない、独占のない、
分側に味方につけようと誰もしない。誰一人誰かを勝ち取ろうともしていない。
思いやりと親しみ、愛しみのまなざしに
すべてがあふれているようにもなぜか感じた……。

僕のいた世界にはまったくなかったものだ。
あの分離の世界で、それが僕は怖かったんだとつくづく今、感じている…。
父の言う通りだった。それをまったく僕は感じられずにいたのだ。
その何かを今感じてる……。
これこそが愛と呼ぶ、本当のものなのか…。
空を泳ぎながら、美しいだけでない、
真に美しい世界を飛び、僕は強くそう感じた…。
この美しき世界をティナと飛んでいる。
言葉をこえて、ティナは伝えてくれる。
つないだ手をあたたかく通して…。
山でも、川でも、海でもない。
そう名づけ、呼んでいるけどすべてははかりしれない未知なる何か。
分離を信じなくていい。私たちは未知の中に今いる。
分子をこえている、とわにわからぬところ。
美しき神々の世界。すべては創造の神の夢。
大丈夫。何があっても、とわに夢の中…。
神秘の中を私たち泳いでいる…。

ティナ:「しっかり手を離さずにいて。今からあの崖の中を通りすぎてみる」

たける:「エッ何!」

たける:「ウワァ~」

ティナ:「行くわよ。怖がらないで。あなたと同じもの。同じ神の想念。同じ物の中へ入る…。」

たける:「僕は岩をすりぬけた…。岩の中は光輝いていた…
岩ではなかった…。 何ということか…奇跡か、夢か、わからない…何もかも…。
岩は、僕だった…。すべてが僕だった…。」

岩も山も、谷も川も、すべてが私たち自身。
同じ輝きでできている…。
あの森も、海も…すべて…。すべてが愛の夢、神様の夢…。
僕は、現実感という分離感から真実の世界に目覚めだしているかのようだった…。
それから数時間、夢のような愛しさの中、
美しき何かの中で、言葉も、我も、隔たりも消えていった…。
そして、美しき時は流れ、二人、大地へと降り立った…。

ティナ:「父が待ってる…村へ案内する…」

たける:「ハイ…」

ふらふらする。体重がない感じだ…
ティナに連れられて、少し歩いた。
周りの森は夕暮れを迎えようとしていて、美しかった。
後ろを振り返ると、動植物君たちが一緒についてきてくれていた…。
なぜか嬉しかった…。
村が見えてきた。多くの人が手を振っている。

たける:「歩くこともできるんだね…」

ティナ:「当然…」

たける:「あの真ん中の人、お父さん…?」

ティナ:「なぜわかる?真ん中だから?…」

たける:「いや、君と同じ光を持っているから…」

ティナ:「スゴイ、それを感じるんだ…。ステキ。そして、アタリ…。」

ティナ:「あなたの父と親友だった…ときをこえて…」

ティナ:「私たちもきっとそうなる…」

たける:「エッ…そう……」

周り中に村の人々…
村の人たち…この人々はいったい何だ…
まったく人間ではない…。
見た感じは人であるのに、人ではなく、美しい何か。

たける:「みなが普通じゃない…」

ティナ:「みんな普通だヨ…。
そうか、もしかしたら、分離がないからかナ…」

たける(ひとりごとのように):「分離がない…自己や自我のない…
戦いや比較、競争や奪い合いがない。
勝ち取りの野心のない人々は、このように見え、感じるのか…。」

たける:「スゴイ 人類は何をしてきてしまったのか…。」

たける:「人は、このようにもなれるのか…。
このように美しく、愛しくも…。」
僕は人の、そして人類の可能性を今、まじまじと見てしまっている。その場から動けなくなっている。

この人たちが醸し出している不可思議なエネルギーは、
愛と呼ぶものなのか、わ か ら な い……。
僕には今まで見たこともないものだった…。
分離のない世界の素晴らしき恐ろしさを今…垣間見ている…。

ティナ:「パパ。やっとおじさまのご子息が、未来からやってきたわ…」

長: 「たける君。待っていましたよ…」

たける:「アッ…ハイ…たけるです…
よろしくお願いします…。」

ティナ:「やっぱマジメ…フフフ…」

たける:「今ティナさんにそら、
いや、 空中をあ ん な い して…もらいました…。
ハァ……。」

長: 「大丈夫…?」

たける:「アッ…ハイ…」

たける:村の人たち、沢山いるのになぜか静か…。
愛がある、なぜかそう感じる…
たくさんいるのにひとりのよう…不思議…

たける:「ありがとうございます…。」

長:「来てくれて嬉しい。待っていました。みなで…」
村のきれいな女性の人が何か持って近づいてきた…。

長:「これは、みなからのプレゼントです…。
ここで創る服です…。あなた用に紡ぎました…。」

たける:「アッ…どうも…あ・り・が……」

ティナ(さえぎるように):「ぜひ着てみてね。あなたと同じものでできている…やさしい…きっと…」

たける:僕は、ひとりの、そして大勢の人たちと共に、村の中へと歩いた。僕らの世界とまったく違った感覚。
すべてに溶け出してしまいそうな感じが、ある意味怖かった…。
まだ人間…。

分離したまま…恐れのまま…。
でも、とても幸せだった。

そこでは、すべての感覚がとてもあたたかかった…。

父さんは、ここに来て…人生が変わった…
それを理解していなかった僕…

何か悲しい、すまないと、なぜかつぶやいた。

いや、きっと、生まれてはじめて、何かを悔いたのだろう…。
これが反省ということなのか…。
僕はそのようなことを走馬灯のように考えていた…。

僕は、父さんや、リリや母さんの立場になって、真になって、その中に入って、仲間や人々の側から、この世界を見たことがあっただろうかと、ふと思った…。

今はじめて、そんなことを感じている…。
人を思いやることなどなかった…と…。

母さん……逢いたい……
リリ……父さん……謝りたい……
悲しい……なぜか……
少し今までの人類らしく、なくなってきたようだ…

たける:「ハァ……」ためいき…
うたげが始まり、あまりにも愛しい、美しい食事。
身を提供してくれる仲間たち。
果実さんや、野菜さんたちの想いに、
うかつにも目から水が出てきてしまった…。
みなと手を取り、踊った…。

悲しみと愛しさでまた、目から水が落ちた…。
下を向く、僕の開いた目…。
まばたきもできず、とてもきれいな輝く水が、なぜか落ちて…。
愛しさで鼻のあたりにこみあげ、圧力がかかったようだ…。

長:「たけるくん、大丈夫…?」

たける:「アッ…アッ…ハイ…」

ティナ:「まじめ…」 
クスクスとティナがほほえむ

長:「これから、君の歓迎のうたげ。今日は祭り、いや、パーティだヨ」

たける:「アッ…どうも…」ペコリ

ティナ:「やっぱりマジメ…」

長:「君のお父さんから、みな、未来の言葉も習ったんだ…。
みな、つながっているから、山も、川も、海も、空も、大地も、動植物たちも、みな君たちの言葉を理解しているよ…」

たける:「アッ、そうなのですか……」
なんて世界だ…
すごすぎる世界…
僕はどうしても…言葉を失った…。
なぜ泣く…僕は…なぜ泣くのか…
なぜ父を‥愛し、母を想うのか…。
なぜリリや友たちが愛しいのか…。
ただただ泣きたくなる…。
悲しい…悲しい…い と し い…

まだこの時は、
もう二度と父と会えなくなることを、
僕は知らなかった…。

 

ティナ:「たける、たける、大丈夫?」

たける:「アッ!ハイ…。」
ティナ:「明日なのだけど、あなたのお父さんから、
昔、言いつかった未来の分離の解決法についての、私たちの研究成果を見てほしい…」
たける「アァッァ…ハ…イ…」

ティナ:「朝、研究室で…」

そう言って、ティナは行ってしまった…
ちょっとさびしかった…。

もう恋してる?……… のか………。